昔は固いパンが皿代わりだった!中世ヨーロッパの食器について
フレンチのコース料理を食べる時、テーブルマナーが不安でソワソワしてしまったことはありませんか?
実はヨーロッパの人々がナイフとフォークで食事するようになったのはここ数百年のことで、中世の時代は手づかみで食事をしていたようなのです。
今回はそのあたりの中世ヨーロッパの食事事情や使用していた食器などについてご紹介させていただこうと思います。
「トランショワール」というパンのお皿
現代の私たちは食事を皿に盛りつけて食べますが、中世ヨーロッパの人々は平皿を使わず、「トランショワール」(英語ではトレンチャー)と呼ばれるパンに肉料理などを載せて食べていました。
ローマ時代の人々は皿を使っていましたが、中世ヨーロッパでは食器は汚れたものだと考えられていたため、平皿の代わりに「トランショワール」と呼ばれる硬くて平たいパンに料理を盛り付け食べています。
トランショワールは肉料理から出た肉汁で柔らかくなるため、食べることもできます。
しかし富裕層の人々はこれを食べることは下品な行為だと考えていたので、自分たちは別のパンを食べ、トランショワールは使用人や家畜などに分け与えていました。
一方、庶民の家庭ではトランショワールも食事の一部として最後に食べられています。
トランショワールが用意できない貧民の家庭では、木の板に直接料理を載せたり、汁物のだけを食べていました。
こうした状況が変化するのは15~16世紀のことです。
平皿が普及していくと同時に、後述するスプーンやナイフ、汁物の器やワインのグラスも1人ずつに用意されるようになりました。
肉を切り分けるためのものとして使われていたナイフ
宗教上の理由で道具の利用が極力控えられていたとはいえ、ナイフの使用は早い段階から認められています。
中世ヨーロッパでは肉の切り分け用に大きなナイフが使われていました。
当時は肉を平等に切り分けることが統治能力と同一視されていたため、肉の切り分けはその場の最高権力者の仕事です。
切り分けられた肉はトランショワールに載せられ、手づかみで食べられます。
ナイフはあくまで肉を切るために皿に添えられるもので、各人が持つことはありませんでした。
15~16世紀以降になると、一人ずつに食器が用意されるようになります。
しかしスプーンやナイフなどは高価な貴重品だったため、外出先では貸し出されないことも多く、客自身が宴席に持参する必要がありました。
英国ではスプーンや爪楊枝などを帽子に刺して歩く習慣もあったといわれています。
なかなか普及しなかったフォーク
ヨーロッパでフォークが知られるようになったのは11世紀のことです。
当時、ビザンティン帝国の姫がイタリアに嫁ぐ時に、金のフォークを持ち込んだという逸話が残されています。
フォークはその後なかなか普及しませんでしたが、15~16世紀になるとイタリアで一般化します。
熱々のパスタを食べる時に素手では不便で危険だったからです。
しかし、イタリア以外の国では麺は普及しなかったため、フォークの普及もイタリア国内に留まりました。
フォークが普及しにくかった理由は他にもいくつかあるといわれています。
- ・先端が鋭いので凶器のイメージが強く、食卓にはそぐわないとされた
- ・教会も採用に反対していた
しかし16世紀後半になると、手づかみで食事するのは不潔だという考えもあり、徐々にフォークが一般化し始めます。
フランスでは、革命後に生き残った貴族たちが平民との身分の違いをアピールするためにフォークを用いたことがきっかけで、真似をした平民たちの間にもフォークが普及するようになりました。
こうして18世紀になると、スプーンとフォークがセットという今の形が誕生したのです。
知られていない中世ヨーロッパの食器事情
ナイフやフォーク、スプーンだけでなく、平皿さえも中世の時代には使われていなかったということに驚いた方も多いのではないでしょうか。
テーブルマナーは奥深く難しいイメージがありますが、こうした食器の歴史を知ることで、少し気が楽になるかもしれませんね。